先週の土曜日に「とうかさん」に行ってきました

 アストラムラインの電車を終点の本道り駅で降りた。19:00前だ。浴衣を着た若い女性が目の前を何人も通りすぎる。僕の4歳の娘も浴衣、妻と僕はラフな洋服だ。「ゆかたの着始め祭り」と言われる「とうかさん」に来たのは十数年ぶりだ。まだ妻と結婚する前に一緒に来て以来だ。しばらく来ない間に浴衣の種類も豊富になったものだ。丈の短いもの、ドレス風のもの、帯にしてもいろいろな種類がある。着方にしても両肩と背中を3分の1ぐらい見せている女性もいる。似合っていない。何人か同じような着方をした女性を見かけたので、レディー・ガガのように、何を着ても自分の物にできる人がどこかにいて、影響を受けたのだろう。意気は感じる。
 
 伝統的な浴衣が似合うのは胴長短足の人だ。手足の長い人は似合わない。胴長短足の人には和服、手足の長い人には洋服が似合う。服装というものはその土地に住む人々の体型や気候、習慣等によって洗練されていったのだろう。浴衣を着た人はお祭りの雰囲気も加わり、誰もがそれなりに見える。1000年後の浴衣はどんな形をしているのだろうか。

 普段は目もくれない安っぽいおもちゃを持って、子供たちが嬉々として走っていく。お祭り効果が働いて買ったのだろう。次の日になったら、なぜ買ったのか疑問に思うだろう。屋台、人、人、人、熱気、人、金魚、屋台、人、人、人、熱気、人、人、人、幾種類もの食べ物の、匂いの混ざったもの。スピーカーから聞こえる力強い音楽。非日常的情景が僕の目の前を通過してゆく。

 娘が「綿菓子が食べたい」と言い出したので屋台をまわるが、なかなか見つからない。歩いていると今度は「金魚すくいがしたい」と娘が言い始める。妻が「金魚をすくっても、あんた世話できんでしょ!すぐ死んだらかわいそうでしょ」といってあきらめさそうとする。それにしてもテレビで庄司智春がしょーもないことを言うと妻は「お前はしゃべるな!」とか言うのに。金魚にかける憐れみの1000分の1でいいから庄司君にかけてほしいものだ。

 綿菓子を持っている人に綿菓子屋の場所を尋ねる。綿菓子屋の場所が分かる。500メートルぐらい先にあるそうだ。人が多く3人で行動すると時間がかかるので、二人を待たせ僕一人で綿菓子を買いに行くことにする。すっかり娘のパシリだ。娘はまだ金魚すくいをしたがっている。娘は諦めが悪い。

 綿菓子を買って娘と妻が待っていた所に戻ると、妻はすっかり疲れ果てていた。娘が金魚すくいがしたいと、かなりぐずったようだ。道端に僕があぐらをかいて座り、その上に娘を座らせ綿菓子を食べさす。おいしそうに食べていた。
 
 今度は娘が「ゲームをしたい」と言い出したので、水の中のおもちゃの魚を、丸いフレームに紙が張ってあるものですくうゲームをさせる。金魚すくいの代わりだ。真剣な眼差しで集中してすくっていた。その頃には、すっかりお祭りの熱気が僕の体にまとわり付いていた。
 
 帰宅するためにアストラムラインの電車に乗る。座席がうまっていたので立っていた。僕の前で女子一人と男子A、Bの3人が座席に座り談笑していた。男子Aのポケットに入れてある携帯電話に付けてあるストラップの人形が、ポケットから出てた。人形は江頭2:50のようだ。後姿しか見えないが黒いタイツに上半身裸、おでこが禿げ上がっているのが少し見えた。江頭2:50かどうか確かめたかったので「それ見せて」と言おうと思った。女子と男子Aがいい雰囲気だ。恋人ではなさそうだが、話の腰を折ったら野暮だと思い、話が途切れるのを待つことにする。話の内容から、たぶん3人とも大学1年生のようだ。先輩の話で盛り上がっている。男子Aが「今日は飲みすぎちゃったよ〜」とかいっている。しばらくして会話が途切れる。チャンス!と思い声をかけようとした瞬間、女子がバッグから飴を2つ出し男子AとBに渡す。男子Aが「ありがとう!ドラえもんみたいだね!」と大げさに喜ぶ。「ハァ?ドラえもんになるためのハードル低!」と思う僕。女子は男子Aに対してキラキラした笑顔で答える。「青春ですね」と思う僕。結局その後も会話は続きストラップが江頭2:50かどうか確かめることはできなかった。もしかしてエスパー伊藤だったのかもしれない。

電車を降り、駅の階段を降り、僕たちは夜道を歩き始めた。

妻と手をつなぎ僕の前を歩く娘のサンダルが「コツコツ」と音をたて夜道に響く。

橋を渡ると、川を通ってくるひんやりとした夜風が僕の頬に心地よかった。
 
夜風は、僕の体にまとわり付いた祭りの熱気を洗い流し、普段の生活に僕を連れ戻した。